「社会保険」についてわかりやすく解説します~後編~

医療保険のサークル

自分の力である一定以上の収入を得るようになると、ご家族の扶養から外れ、様々な社会の仕組みを直接利用するようになります。前編では国民皆保険といわれている「医療保険」「介護保険」について、一般的な情報をお伝えしました。後編では労働者が加入する「労働保険」について詳細を解説いたします。

労働保険とは

働くの文字

「労働保険」とは「労働災害補償保険」と「雇用保険」の総称で、1人でも労働者を雇用している事業主は加入手続きを行い、保険料を支払う義務が発生します。この2つの保険の違いは何でしょうか。以下を確認していきましょう。

労働者災害補償保険(労災補償保険)とは

落ちたヘルメット

「労働基準法」には労働者と雇用主間の労働条件に関する基準が定められており、その第75条~77条には「労働災害」に関する条項があります。その中で、事業主は「業務上、または通勤途上におけるケガや疾病」いわゆる「労働災害」によって就業できない労働者へ、その傷病に関わる休業期間の給与などを一定額以上補償することが義務づけられています。「労働災害補償保険」は事業主が加入し保険料を支払うことで、労働災害によって就業できない労働者へ様々な給付等が行われる仕組みとなっており、その詳細は「労働者災害補償保険法」に定められています。この保険の被保険者は「職業の種類」や「雇用形態(パートやアルバイト等の雇われ方)」を問わず、「労働保険適用事業所の事業主」に雇われ、「賃金が支払われている労働者全て」となり、ほかの社会保険とは異なり、事業主が保険料の全額を支払います。「労災補償保険」の申請は事業主、医師などの証明後、労働基準監督署へ申請し、審査が行われ、「労働災害」と認定されると保険給付があります。

労働災害補償保険法における保険給付の詳細は?

労働災害補償保険法によって制度の詳細が取り決められている「労働災害補償保険」は、業務上または通勤が要因でのケガ、疾病等と認定された労働者の生活や雇用、社会復帰の促進、安全と衛生の確保を図り労働者の福祉の増進を目的とした保険です。その保険給付内容を以下に示します。

医療機関での費用に関する補償、療養補償等給付とは

医療の説明薬

「療養補償給付」は労働災害により、労災保険指定医療機関や薬局等を利用した場合に無料で治療や薬剤の支給が受けられる「療養の給付」と、指定医療機関等以外を利用した場合に、その費用が支給される「療養の費用の支給」があります。どちらも、労働災害発生後、事業主によって申請内容が記載された指定様式書類を、本人(またはその代理人)が利用した医療機関へ提出し、医師の証明後、医療機関から労働基準監督署へ提出されます。労働災害の認定を受けると、医師による診察費、処置や手術などの治療費、病院または診療所への入院及びその療養に伴う世話や看護、処方箋による薬局等での薬剤などの費用は労災保険から支払われるため、指定医療機関では窓口での本人負担はありません。(指定医療機関以外での受診の場合は支給方法に例外あり)この補償は傷病が治癒(労災での治癒=症状が固定した状態/これ以上医療効果が期待できない状態)するまで続きます。

お休み中の給与補償、休業補償給付とは

ケガで寝ているベアー

休業補償給付は、労働災害により労務不能となり、賃金を受けない日の第4日目からが支給対象になります。事業主が指定された様式に申請内容を記載し本人(または事業主)が医療機関へ提出、医療機関の証明を受け本人(または事業主)が労働基準監督署へ申請します。認定を受けるとその休職期間中(1年6か月まで)は「休業補償の給付」があります。この休業補償は労働基準法に基づく休業補償(1日につき平均賃金の60%)と休業特別支援金(1日につき平均賃金の20%)の合計が支給される仕組みになっています。なお、労働災害の場合、休業初日から3日目までの期間(待期期間)は、事業主が休業補償(1日につき平均賃金の60%)を行うことが義務付けられています。

労働災害治癒後の補償、障害補償給付とは

労働災害の認定を受けたケガや疾病が治癒した時(労災での治癒=症状が固定した状態/これ以上医療(労災保険療養の範囲での医療)効果が期待できない状態をさす)、身体に一定の障害が残った場合、その障害等級に従い、障害補償給付(業務災害の場合)、または障害給付(通勤災害の場合)が年金、または一時金として支給されます。事業主は指定された様式に申請内容を記載し本人(または事業主)が医療機関へ提出、医療機関の証明を受け本人(または事業主)が労働基準監督署へ申請します。必要に応じて添付書類を求められることもあります。

治癒せず傷病等級に該当した場合は?傷病補償年金の申請を

労働災害の認定を受けたケガや疾病が1年6か月経過後も治癒せず(労災での治癒=症状が固定した状態/これ以上医療(労災保険療養の範囲での医療)効果が期待できない状態をさす)そのけがや疾病による障害が残り、傷病等級に該当した場合、その等級に従い傷病補償給付(業務災害の場合)、または傷病給付(通勤災害の場合)が年金、または一時金として支給されます。

療養後障害・傷病給付を受け、介護が必要になった場合の介護補償

障害(補償)等年金または傷病(補償)等年金を受給している人の、障害等級・傷病等級が一定の条件を満たし、現に介護を受けている場合は、介護補償給付(業務災害の場合)、介護給付(通勤災害の場合)が支給されます。介護している人が介護の証明を、指定された様式には医師の証明をうけ、本人(または介護人)が労働基準監督署へ申請します。

遺族補償とは

遺族(補償)等年金の受給資格者となるのは、被災労働者が死亡当時その収入によって生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹です。妻以外の遺族については、被災労働者死亡当時に一定の高齢または年少であるか、あるいは一定の障害の状態にあることが必要です。なお、「被災労働者死亡当時、労働者の収入によって生計を維持していた」とは、もっぱらまたは主として被災労働者の収入によって生計を維持していた場合だけでなく、被災労働者の収入によって生計の一部を維持していた、いわゆる「共稼ぎ」の場合もこれに含まれます。

労災補償保険の詳細は厚生労働省HP「労災補償」をご確認ください。

労災補償・労働保険徴収関係 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

「雇用保険」とは

雇用保険被保険者証の写真

雇用保険法には労働者の失業の予防、雇用による生活の安定、能力開発、就業継続困難時の給付など、労働者の職業の安定と生活を支えるための福祉を目的とした内容が定められています。前章でご紹介した労災保険の「労働災害補償保険」は「業務上」または「通勤途上」ので傷病に対する医療と給与の補償保険でした。この章でご紹介する「雇用保険」は「失業中」の給付や教育訓練サポートのイメージが先行していますが、「在職中の被保険者」にも給付金などのサポートがあります。詳細を順に解説します。

雇用保険の適用者は?

雇用保険の適用事業所(農林水産、畜産、養蚕業で労働者が5名未満の個人事業主は除く)で働く雇用されている労働者で、「1週間の所定労働時間が20時間以上であること」「31日以上の継続雇用見込みがある人」「学生ではない人」場合は雇用保険の適用範囲です。家事使用人、昼間学生、単発アルバイト、31日未満の季節的短期アルバイト、公務員などは適用除外となり、個人事業主や事業代表者は加入できない、もしくは加入しなくてよい場合があります。

職を失ったとき、失業時の給付は?

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雇用保険の被保険者が定年、期間満了、倒産、その他の都合で離職すると、所定の手続きを行うことでそれ以降の一定期間における就職活動中に給付を受けることができます。この手当を「基本手当」といい、原則として離職した日の直前6か月間に支払われた決まっていた賃金(賞与などは除く)をもとに日額を計算し、年齢ごとの上限額に照らし合わせながらその日額が決まります。支給日数や受給開始までの待機期間などは年齢や被保険者だった期間によって変わります。なお、この「基本手当」を受給できるのは「ハローワークへ行き、求職の申し込み手続きを行った人」で「いつでも仕事ができる状態、かつ離職の日以前2年間に被保険者期間が通算して12か月以上あること」が条件となります。

すぐに働くことができない人は受給延長申請を

失業時の基本手当(失業保険)の受給期間は原則として、離職した日の翌日から1年間です。すぐに働けることが前提で支給される基本手当(失業保険)は、理由によっては受給期間を延長できる場合があります。以下にその対象となる方を示します。

・病気やけがによってすぐに働くことができない場合

・妊娠・出産・育児(3歳未満)によって働くことができない場合

・介護のためすぐに働くことができない場合

・60歳以上の定年退職後、いったん休養したい場合

受給期間を延長するには受給期間延長申請書、離職票、診断書や母子手帳などの確認書類など、必要書類をそろえてできるだけ速やかにハローワークへ提出します。なお、延長を解除するときも複数の書類が必要になります。

求職手続き後の傷病への対応は?

雇用保険には、失業後に病気やけがが理由で15日以上継続して仕事に就くことが難しく、ハローワークでの求職の申し込みをしており、手続き後にその傷病が発生している場合、「基本手当」は支給されませんが、「傷病手当」の支給があります。

雇用保険在職中の給付も活用しましょう

雇用保険は前章で解説した「失業保険」のイメージが先行していますが、在職中に受けることができる給付も複数あります。

労働者のスキルアップを支援する教育訓練給付

トレーニング

働く人の主体的なスキルアップやキャリア形成を支援するために設けられたこの「教育訓練給付制度」は厚生労働大臣が指定した14,000の講座が給付対象です。講座によって支給要件や申請方法、補助率が異なるため、詳細はハローワークインターネットサービスの教育訓練給付制度をご確認ください。

育児休業中の仕事ができない期間を支える「育児休業給付」

育児休暇のサイン

雇用保険の被保険者は一定の要件を満たすと「出生時育児休業給付金」「育児休業給付金」の支給を受けることができます。どちらの給付金も休業開始時賃金日額(休業開始前の直近の6か月間の賃金から計算した額)に支給日数を乗じた金額の67%が支給されます。(育児休業期間がある一定期間を過ぎると50%になります)

「出生時育児休業給付金」は「産後パパ育休(出生時育児休業)」と呼ばれる休業制度を利用し、子の出生日から起算して8週間を経過する日の翌日までの期間に4週間(28日)以内に出生時育児休業を取得した被保険者で、支給要件を満たした方が給付対象です。この「産後パパ育休」はフキシブルな対応ができるよう配慮された休業制度です。

「育児休業給付金」は一歳未満の子を養育するために「育児休業」を取得した被保険者が、支給要件を満たすことで給付対象となります。産前産後休業取得中や介護休業が開始された場合などはその開始日の前日で育児休業給付金の受給は終了します。

雇用継続給付

年齢による給与の低下や家族などの介護により休業せざる負えない状況になった場合、一定の要件を満たし、手続きをすることで雇用の継続をサポートする給付金「雇用継続給付金」が支給されます。この給付金には「高齢者雇用継続給付」と「介護休業給付」があります。

高齢期の賃金低下をサポート!

高齢者が仕事をしている

60歳到達時と比較し、以降65歳未満の支給要件を満たした被保険者に支給される給付で、高齢者の就職意欲と雇用継続を促進することを目的としています。

家族の介護が必要になった時

雇用保険の被保険者が対象となる家族を介護するため休業が必要になった場合、一定の要件を満たすことで介護休業給付金の支給申請をすることが可能になります。対象となる家族の範囲や要介護の状態などの詳細な取り決めがあるため確認が必要です。

給付日額は原則休業開始前6か月間の賃金を180で除した額が休業開始時賃金日額となり、この日額をもとに計算されます。

「基本手当」「受給要件」に関する詳細は厚生労働省HP「雇用保険制度」または「ハローワークインターネットサービス」をご確認ください。

雇用保険制度 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

ハローワークインターネットサービス – トップページ (mhlw.go.jp)

まとめ

家族を守る保険

いかがでしたか。思っていた以上に手厚い補償や給付があると感じた方が多いのではないでしょうか。医療に関する任意保険など(外部の自分で支払う保険)に加入する前に、会社の健康保険や日本の労働保険にはどのような補償があるのかを今一度確認し、万が一に備える準備をしていただければと思います。

【出典】厚生労働省HP

「社会保険」についてわかりやすく解説します~前編~