製造業・建設業などで大活躍の「クレーン」を探る
様々な現場でよく目にする「クレーン」。皆さんは「クレーン」という言葉からどんな「クレーン」をイメージしましたか?この記事では、製造業や建設業で利用頻度の高い「クレーン」について、その語源や歴史、活躍の場所、種類、資格などの一般的な情報と、松本ESテックの製造現場で活躍している「クレーン」について分かりやすくお伝えします。
「クレーン」の語源
「クレーン」という言葉はどこから来たのでしょうか?「クレーン」は英語の「crane」が語源で、もともとの意味は鳥の「つる」です。初期の「クレーン」の形状が、長い首を持つ「つる」が首を伸ばした状態に似ていたことから、「crane/クレーン」と呼ばれるようになったと言われています。
「クレーン」の歴史をのぞいてみましょう
日本最古のクレーンは明治時代のものと言われていますが、クレーンの前身である「てこの原理」を利用して重いものを移動させる技術は、はるか昔の古代ギリシャ・ローマ時代から存在していたと言われています。その後、産業革命時代における蒸気機関の発明により、クレーンの動力源が人力や動物から蒸気へと変わりました。これにより、クレーンはより重たいものを移動させたり持ち上げたりすることが可能になりました。現代では、コンピュータ制御や高度なセンサー技術を搭載したクレーンが普及し、さらに安全で精度の高い操作が可能になっています。古代の手動式クレーンから産業革命による蒸気クレーン、そして現代の高度な機械化・自動化技術を取り入れたクレーンなど、「クレーンの歴史」は数千年にわたり、人類の建築技術や産業技術の進化とともに発展し続けています。
クレーンの代表的な種類をご紹介します
さて、冒頭であなたがイメージした「クレーン」はどのタイプの「クレーン」でしょうか?この章では、それぞれの特性を活かして効率的に作業を行うため、現場の環境や持ち上げる荷によって選定される「クレーン」の代表的な種類とその特徴をご紹介します。
「一般的なクレーン」
「荷を動力を用いて吊り上げ、これを水平に運搬する事を目的とする機械装置」かつ、移動式クレーン、デリック以外のものを「クレーン等安全規則」では「クレーン」と定めています。この章では一般的なクレーンについてご紹介します。
1.天井クレーン
天井クレーンは建屋の両サイドの壁に設置されたランウェイ上を移動する「オーバーヘッドクレーン」と、建屋の天井梁に走行レールを固定し、この走行レールに懸垂し走行する「ローヘッドクレーン」があります。どちらも工場や倉庫の天井に設置されており、レールを横移動し、ワイヤーロープやフックなどで荷を吊り上げ、重い荷物を効率よく水平移動させることができます。天井クレーンは、工場内での部品や材料の移動、倉庫での荷物の積み下ろしなどに使用されます。
2. ジブクレーン
水平方向に回転するジブ(アーム型クレーンの竿の部分)を持つジブクレーンは、固定された支柱、壁、床などに設置されます。限定された範囲での荷物の移動に適しており、工場内の限られた狭いスペースでの作業から、大きなものでは港湾での大型コンテナの積み下ろし作業まで、適用できる環境はさまざまです。
3. ケーブルクレーン
ケーブルを使って荷物を移動させるケーブルクレーンは、長距離の水平運搬が可能です。山間部のようなアクセスが難しい場所や、広範囲にわたる工事現場で使用されることが多いです。ケーブルクレーンは、建設資材や土砂の搬送に使用されることが一般的で、特に橋梁工事やダム工事、河川の改修などの土木工事で活躍します。
4. アンローダクレーン
アンローダ(unload=荷を下ろす)は港湾などで石炭や鉱石、その他の荷役を行うための専用の機械装置を指し、様々な方法が存在しています。その一つとしてクレーンによる荷役作業を行う「アンローダクレーン」は、停泊中の船から直接コンテナなどの大型貨物を迅速かつ安全に移動させることができます。
5. タワークレーン
タワークレーンは、主に高層建築現場や大型建造物の建設時に利用される大型クレーンです。このクレーンは固定されたタワーの上にクレーンが取り付けられ、クレーンのアーム部分(ジブ)が回転して荷物を持ち上げます。タワークレーンは、敷地が狭い場所でも設置が可能で、作業が終了すると解体し、次の現場で利用します。
6. ガントリークレーン
ガントリークレーン(gantry crane)は、一般的には地面に設置されたレール上を移動する門型の大型クレーンです。非常に大きな荷物を持ち上げることができ、上部にあるクレーンのアーム部分が前後に動いて荷物を持ち上げます。ガントリークレーンは、コンテナ港でのコンテナの積み下ろしや大型造船所での船体ブロックの移動に適しています。
「移動式クレーン」
この章で紹介するクレーンは固定されていない、移動が可能なクレーンです。厚生労働省が示す移動式クレーンの定義「荷を動力を用いて吊り上げ、これを水平に運搬することを目的とする機械装置で、原動機を内蔵し、かつ、不特定の場所に移動させることができるもの」を満たすクレーンが移動式クレーンです。
1. トラッククレーン
トラッククレーンは、一般的には専用のクレーン装備をトラックの荷台部分に搭載し、トラック運転席とは別にクレーン操作の運転席がついているのが特徴です。トラッククレーンは更に、運転席と荷台の間に小型クレーン装置を搭載した車両積載型と、クレーンがトラックのシャーシ(車の骨格)に取り付けられたレッカー型などに分類されます。このタイプのクレーンは道路を自走できるため、移動が非常に便利で、多くの建設現場や事故現場などで利用されています。
2. ホイールクレーン
ホイールクレーンは、タイヤ付きのシャーシ(車の骨格)に搭載されたクレーンで、トラッククレーンと同様に道路を自走でき、吊り上げ荷重0.5トン以上の荷を扱う際に利用されます。運転席1つで走行とクレーン操作を行うことができ、荷を釣ったまま走行が可能です。ホイールクレーンは、移動の利便性と持ち上げ能力を兼ね備えているため、様々な現場で利用されています。
3. ラフテレーンクレーン
荒れた地形(rough terrain)での作業に適した4種類の操向方式を備えたラフテレーンクレーンは、一つの運転席でクレーンの操作、車両の操作を行うため移動式クレーンの一種として位置づけられています。強力なクレーンのアーム部分(ブーム)と安定脚(アウトリガー)を備え、移動性と耐久性が高いのが特徴です。ラフテレーンクレーンは、遠隔地や不整地での建設作業やオフロード環境での資材運搬に適しています。具体的には、山間部での風力発電設備の設置や林業、鉱業での重機の搬送に使用されます。
4. クローラークレーン
クローラークレーンは、キャタピラー(クローラー)を使用して移動するクレーンで、非常に重い荷物を持ち上げる能力があります。地盤が軟弱な場所でも安定して動作するため、大型インフラプロジェクトや発電所、石油化学プラントの建設に使用されます。橋梁の建設や発電所のタービン設置など、特に重機を必要とする現場での作業に適しています。
5. フローティングクレーン(浮きクレーン)
フローティングクレーンは、水上を移動するクレーンで自航式と非自航式に分かれており、水上での作業に適しています。高い持ち上げ能力を持ち、河川、港湾、海上等の建設作業や橋梁の建設、サルベージ作業(海難救助)などに使用されます。
「デリック」
クレーン、移動式クレーンとは少し構造が違うデリックについて、次章の「資格」をご理解いただくため、簡単にご紹介します。デリックは垂直に立つ1本の支柱(マスト)とこれに取り付けられたアーム(ブーム)で構成され、ワイヤーロープで荷物を吊り上げ移動させる起重機です。垂直方向の荷の持ち上げや降下作業に適しているため掘削現場、建設現場、鉱山やプラント装置の設置など特定の場所で重量物を持ち上げるために使用されています。
松本ESテックの工場で活躍中のクレーン
松本ESテック株式会社の幕張工場では、人が動かすことができない重量の「電磁鋼板/重いものは10トン以上」がトラックで搬入され、荷下ろし後、スリットと呼ばれる機械にその電磁鋼板をセットしカットする工程があります。電磁鋼板の移動には天井クレーンが活躍しています。「トロリ式」と呼ばれている積載可能15トン、10トンのオーバーヘッドクレーンが1台づつ設置され、操作は床上からではなく天井クレーンのサイドの運転席で行います。このクレーンには過去のコラムでご紹介した玉掛け用具の一つである「シーフック」「トング」を取り付けることにより、重たい電磁鋼板を安全に移動することが可能です。この他、「ホイスト式」のクレーンは床上から操作が可能な床上操作式タイプがあります。白井工場ではカットされた素材や製品、金型などを移動する目的の天井クレーン14基、ジブクレーン5基が設置されています。白井工場の天井クレーンは「ホイスト式」で、床上操作式のみが設置されています。
以上が主なクレーンの種類とその特徴、使用用途などの詳細でした。クレーンはその特性に応じて、能力を発揮できる最適な現場があり、さまざまな産業分野や建築現場で効率的かつ安全に重い重量物を持ち上げ、移動させることが可能です。
クレーンを運転・操作するための資格をご紹介
クレーンを操作するには労働安全衛生法によって定められた教育を受ける必要があります。この章ではクレーン操作に関する一般的な「運転士免許」「技能講習」「特別教育」についてご紹介します。詳細は労働安全衛生法(運転士免許、技能講習:第61条、特別教育:第59条)、クレーン等安全規則(運転士免許:228条、技能講習:第221条、特別教育:第222条)をご確認ください。
【運転士免許】
吊り上げ荷重5トン以上のクレーンやデリックの操作には「運転士免許」が必要です。全てのクレーンを操作できる免許の他に、操作できるクレーン・デリックが限定されている「運転士免許」もあります。通常は学科と実技を合わせておよそ5日程度の時間を要します。
・クレーン・デリック運転士免許(限定なし)
・クレーン・デリック運転士免許(クレーン限定)
・クレーン・デリック運転士免許(床上操作式クレーン限定)
・移動式クレーン運転士免許
【技能講習】
吊り上げ荷重1トン以上5トン未満の小型移動式クレーン操作、吊り上げ荷重5トン以上の床上操作式クレーン、制限荷重が1トン以上のクレーンや移動式クレーン・デリックの玉掛け作業をするには「技能講習」を受講し資格を取得する必要があります。通常は数日間かけて、学科と実技の講習を受講します。
・小型移動式クレーン運転技能講習
・床上操作式クレーン技能講習
・玉掛け技能講習
製造業の松本ESテックで一番初めに取る資格「玉掛け作業」についてお伝えします!
【特別教育】
吊り上げ荷重5トン未満の床上操作式クレーン、吊り上げ、荷重1トン未満の移動式クレーン、玉掛の作業をするには「特別教育」を受講する必要があります。特別教育も学科と実技を数日かけて受講し、資格を取得します。
・床上操作式クレーンの特別教育
・移動式クレーン運転の業務に係る特別教育
・玉掛けの業務に係る特別教育
松本ESテックでは業務に必要な資格取得は全て会社が申し込みを行い、業務として受講します。この記事で記載した資格以外にも様々な「講習」「資格」があります。個人で資格取得を目指す場合は労働基準監督署や各地の講習機関に問合せ、具体的な日程や費用を確認してください。
まとめ
建設業や製造業で活用する「クレーン」。今回の記事でご紹介できない「クレーン」の種類はまだまだたくさんあり、様々な現場で活躍し続けています。「クレーン」操作の資格取得は法的要件を満たすとともに、あなたの業務の幅を広がるほか、作業効率や安全性も向上し、信頼性も高まります。ぜひ、資格取得を通じて、新たな可能性に挑戦してみてください。