日本の公的年金制度を確認しましょう

年金手帳

20歳になると加入が義務付けられている「国民年金」や、会社員や公務員などが加入する「厚生年金」などの日本の公的年金制度について、「保険料を納付する」「一定の年齢以上になると年金がもらえる」ということ以外の仕組みをご存知でしょうか。納付書が届き、自分で保険料を納めたり、給与から天引きされたりすることで、私たちは「公的年金制度」という社会の仕組みに参加しています。この記事では「公的年金制度」の一般的な情報とその仕組みについて解説いたします。「年金は納めた方が良いのか?」と悩んでいる方も是非ご覧ください。

社会の仕組み「公的年金制度」とは

日本地図と日本国旗

日本の公的年金制度は、「年老いて現役世代のように働けなくなった時」や「事故などで障害を負った時」などのいざという時の生活を、世代を超えて支え合う、という社会保険の概念に基づいて制度化された社会の仕組みです。健康保険などの社会保険と同様、「国民皆年金」として位置づけられ、公的年金制度は社会全体をサポートするために構築されています。ここでは、その歴史と制度について詳しく解説します。

2階建て構造の年金制度

日本の公的年金制度は、「国民年金(基礎年金)」と「厚生年金保険」の2階建ての構造になっています。1階部分は「国民年金(基礎年金)」で、20歳以上60歳未満の日本在住の方が対象です。2階部分は、会社員や公務員などが加入する「厚生年金保険」で、加入期間の報酬に応じた年金を、国民年金(基礎年金)に上乗せして受給することができます。

公的年金制度の歴史を確認しましょう

日本の公的年金制度の歴史は戦後に遡ります。その時代に即した法改正を経て、現行の制度が確立されました。以下にその歴史をご紹介いたします。

公的年金制度の始まり

終戦後、工場等で働く男子労働者向けに養老年金(ある年齢に達した際に支給される年金)などを支給する目的で、1941年に制定された「労働者年金保険法」は翌年の1942年にに施行されました。この制度は労働者の福祉向上だけでなく、労働力の維持と生産力の増強を目的とし、1944年には法の名称が「厚生年金保険法」に変更され、被保険者の範囲が「事務職員や女性」にも広がりました。戦後の日本は急激なインフレや経済の混乱などにより国民生活は厳しく、保険料の納付が難しいことからその対応として「保険料率の見直し」「支給開始時期の引き上げ(55歳から段階的に60歳へ)」、そして現在の年金制度の基礎である「2階建て構造」の老齢年金が導入されました。

国民皆で支え合う「国民皆保険」の実現

年金制度創設以降、制度の対象は民間企業会社員や公務員などに限られており、自営業者や農業従事者には公的な年金制度が存在しませんでした。これに対応して、1959年に「国民年金法」が制定され、2年後の1961年に施行、厚生年金や共済年金などの対象外である20歳から59歳までを対象とした「国民年金」の納付が始まり、「国民皆保険」が実現しました。

経済情勢に合わせた改正

日本の経済成長グラフ(国旗で表す)

その後、日本経済は高度成長期を迎え、国民の所得水準は増加しました。この状況を踏まえ、保険料率の引き上げや在職老齢年金(働く65歳以上の人への年金)制度の導入、国民年金や老齢年金の改定が行われ、年金支給額も引き上げられました。さらには年金額の物価スライド制の導入なども行われ、経済情勢に適した年金制度の改正が進みます。

少子高齢化への対応

出生率の低下と医療の発達などにから平均寿命が延び、日本では少子高齢化が進みます。この状況を受け、1980年の法改正では、厚生年金の支給開始が60歳から65歳へ引き上げる動きがありましたが、可決されませんでした。当時の公的年金制度は、厚生年金、国民年金、船員保険の3つの社会保険と、国家公務員、地方公務員等、公共企業体職員等、私立学校教職員、農林漁業団体職員の5つの共済組合から成り、給付と負担の両面で制度間の格差や重複給付などが発生していました。これを解決するため、1985年の改正で「基礎年金」の導入と「給付水準適正化」「女性年金権の確立」などが整備されました。

基礎年金とは

基礎年金は、現行の年金構造においても存在する2階建て年金制度の1階部分を指します(後述あり)。1984年時点では、月額50,000円が支給されていました。

給付水準の適正化とは

サラリーマンなどが被保険者となる厚生年金(基本年金の上乗せ2階部分)において、給付の乗率や定額単価の逓減が盛り込まれ、給付水準の適正化が図られました。

女性年金権の確立とは

サラリーマン等の配偶者(扶養範囲内、専業の配偶者)にも国民年金加入が義務付けられ、基礎年金の支給体制が整えられました。ただし、保険料の徴収はその配偶者からではなく、サラリーマン等が加入する厚生年金で賄われ、その配偶者は第3号被保険者と呼ばれます。

平成以降の改正

平成元年の改正では、特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢引き上げ案が国会で削除され、物価変動率が低くとも、年金額を自動的に改定する自動物価スライド制が導入されました。20歳から加入義務となる国民年金加入者(第一号被保険者)に対する上乗せ年金である国民年金基金制度の導入、在職老齢年金制度の改正により賃金と年金の合計が増加する仕組みの導入、可処分所得スライド、新しい保険料制度、育児休業中の保険料免除なども実施されました。その後、鉄道、たばこ、電話の3つの共済組合が厚生年金保険制度に統合され、費用負担の平準化が進みます。

少子高齢化加速への対応

少子高齢化のボード

60歳前半で支給されていた老齢厚生年金は、2013年から12年かけて65歳からの支給に変更され、消費税率8%への引き上げに伴う基礎年金国庫負担割合2分の1恒久化、短時間労働者への厚生年金適用拡大、国民健康保険未納付者対策などを含め、年金を持続可能にすべく、その時代の変化に合わせた改革や改正が続きます。

日本の公的年金制度の詳細は

この章では日本の公的年金制度である「国民年金(基礎年金)」と「厚生年金」について、それぞれの仕組みの基本的な部分を具体的に確認していきます。

20歳になると加入義務が発生する「国民年金(基礎年金)」とは

「20歳以上60歳未満のすべての人」に加入が義務付けられている「国民年金(基礎年金)」は、「国民年金法」によりその詳細が定められており、基本は20歳になる前に「加入、納付に関する通知」が届きます。国民年金は職業などによって3つの被保険者に分かれており、それぞれの加入手続きや保険料の納付方法も異なります。以下に、3つの被保険者の対象者、届出、納付方法を解説します。

第1号被保険者

国民年金のみに加入する「第1号被保険者」の対象者は「農業、自営業、学生、無職の方など」です。居住の市区町村へ加入の届出を個人が行い、送られてくる納付書や口座振替によって個人で保険料を納付します。

第2号被保険者

国民年金と厚生年金の両方に加入する「第2号被保険者」は「会社員、公務員など」が対象です。入社または入職と同時に事業主が届出を行い、保険料は給与から控除され、事業主が納めます。(後述有り)

第3号被保険者

第1号被保険者と同様に「国民年金」のみに加入する第3号被保険者の対象者は「国内に居住し、第2号被保険者に扶養されている配偶者」で、個人での手続きや自己負担はありません(第2号被保険者の加入制度が負担します)。

国民年金制度の保険料は一律

国民年金の保険料は一律で決められており、令和5年度現在、16,520円です。複数月分の納付も可能で、保険料を10年以上納付することで年金の受給が可能になります。国民年金の財源はこの保険料と国(税金)によって賄われています。

国民年金の給付内容の確認

年金受給(日本のお金)

年金はシルバー世代のために存在するも、と思われがちですが、年金の給付には「老齢基礎年金」の他に、万が一の場合の備えとして「障害基礎年金」「遺族基礎年金」があり、一定の要件を満たす年金加入者であればこれらを受け取ることができます。

老齢基礎年金とは

65歳を過ぎると、国民年金から「老齢基礎年金」が給付され、これを一生涯受け取ることができます。「老齢基礎年金」の給付額は、保険料を納めた期間が長ければ長いほど、受け取る年金額も多くなります。また、繰り下げ受給や繰り上げ受給が可能です。

 障害基礎年金とは

国民年金加入後に病気やけがで障害が残り、一定の障害等級に達し、かつ納付要件と支給申請要件を満たしている場合、「障害基礎年金」が支給されます。この年金は、障害の程度に応じて異なる障害等級に基づいて給付されます。

遺族基礎年金とは

国民年金加入者本人が亡くなった場合、子を持つ配偶者または子がいる場合は「遺族基礎年金」を受け取ることができます。「遺族基礎年金」は、亡くなった加入者の保険料納付期間や死亡時の状況によって支給され、配偶者や子供に生計の支えとなります。

20歳よりも前から納付が始まる?「厚生年金保険」の仕組み

厚生年金の控除明細

厚生年金保険は、厚生年金加入事業主の事業所や公務員として入社または入職する人が加入する強制保険です。以下に、国民年金との違いや具体的な仕組みについて解説します。

厚生年金保険の対象者は?

厚生年金保険の対象者は、厚生年金加入事業主の事業所で働く人や公務員です。義務教育終了後以降20歳までの方が対象事業所に入社した場合、20歳未満であっても厚生年金の被保険者となり、保険料の納付が始まります。

どのように加入すればよいか?その申請方法は?

個人での申請は一切なく、事業主が厚生年金に加入する申請を行います。

保険料はどのように納付すればよい?

保険料は国民年金のように一律ではなく、個人の報酬額によって決定されます。事業主は決定された保険料の半分を負担し、被保険者負担分は給与から控除され、合計した保険料を事業主が納付します。

扶養配偶者の年金負担

国民年金との大きな違いの一つとして、厚生年金被保険者の配偶者が一定の条件を満たすことで国民年金の第3号被保険者となり、保険料の納付が免除されます。

厚生年金の給付内容は?

厚生年金加入者は「公的年金制度」の1階と2階の保険料を納付しているため、結果として国民年金に上乗せされた年金を受給することができます。受給できる年金には「老齢厚生年金」「障害厚生年金」「遺族厚生年金」があります。

気になる年金受給額について

老後を支える年金をあらわす写真

国民年金保険料を義務期間の480か月分(40年、20歳から60歳まで)納付した第1号被保険者の令和5年度の基礎年金額は月66,250円(67歳以下の新規裁定者)です。(令和3年度末平均額は月5.6万円)

第2号被保険者の厚生年金の上乗せ分年金額は現役時代の標準報酬から計算されるため、一定の金額ではありませんが、厚生年金加入者の年金平均額は14.6万円(基礎年金+所得比例分の厚生年金の合計)です。

第3号被保険者は40年間の加入で第1号と同じ老齢基礎年金を受給できます。

まとめ

世代を超えた手のひらの写真

いかがでしたか。日本の公的年金制度について、20歳以上になると加入が義務となるその意味をお判りいただけましたか。

ある会合で「もし結婚した相手のご両親が年金に加入していなかったらどうなるか」という話題がありました。その際、「おそらく親族がそのご両親の生活を支えていくことになりますが、あなたの配偶者は自分の家族も養わなければなりません。そんな時、ご両親に「年金収入」があればある程度の生活は保障されます。年金に加入し、保険料を納付することは将来の自分の生活だけでなく、親族の生活も支えるということです」との話がありました。

世代を超えて支え合い、いずれは支えられる立場となる「公的年金制度」を正しく理解し、加入している「社会の仕組み」を上手に活用しましょう。

【出典:日本年金機構HP、厚生労働省HP】

「社会保険」についてわかりやすく解説します~前編~

「社会保険」についてわかりやすく解説します~後編~