松本ESテックの設備:プレス機械特集~Part2~

ものづくりの現場において、プレス機械は金属部品の成形や加工を担う重要な設備です。Part1のプレス機械特集では、「駆動動力」の違いから分類し、プレス機械をご紹介しました。Part2の本記事では、プレス機械がどのような構造なのか、基本構造をテーマに解説していきます。少しマニアックになりますが是非お付き合いください!
プレス機械の基本構造
プレス機械は、一見すると単純な上下運動をするだけの機械に見えますが、実は非常に精密な構造をしています。主な構成要素は、「フレーム(本体構造)」、金型を支える「ボルスタ(テーブル)」、動力やその伝達、制御を担う「動力伝達・制御システム」、可動部の「スライド機構」などで、これらが一体となり精密なプレス加工を実現しています。
機械全体を支えるフレーム(本体構造)

フレームはプレス機械全体を支える「骨格・体幹」にあたる部分で、基本的には全ての部品がこのフレーム内に収められています。フレームは加工時に発生する圧力や振動に耐えられる必要があるため、とても頑丈に作られています。
プレス機械の内部頭脳を守る「クラウン(Crown)」

プレス機械の最上部は「クラウン」と呼ばれています。クラウン内部には、プレス機械の動きを制御する制御装置や、動力の起点となる駆動装置などが集約されており、機械全体に「動作の意思決定」や「命令」を伝える司令塔のような役割を果たします。クラウンはこの「頭脳装置」を守る、頭部の骨格的役割をはたしています。プレス機械の頭部の重みを支えるのは「コラム」と呼ばれる柱の部分で、上部構造を支える重要な部位です。
頭を支える「コラム(Columns)」

「コラム」とはクラウンとベッド(後述あり)を縦に連結する柱状の部品で、左右に2本(又は4本)ある縦方向のフレーム部品です。人の「首や背骨」に相当する部分で、機械全体の支柱として非常に重要な役割を担っています。スライド(後述あり)の上下動を正確に導くガイド機構が収められている、製品精度維持には重要なパーツの一つです。
衝撃を受け止めるベッド(Bed)

「ベッド」はフレームの下部に位置する水平な台座です。金型の下型を設置する土台のボルスタ(後述あり)を固定する場所で、プレス加圧を受ける基盤となっています。プレス機械の種類によって構造は異なりますが、油圧タンクや配管、エア制御機器、冷却水やオイル循環配管が通ることもあります。中型以上のプレス機械では、点検や保守用のハッチ、内部通路が設けられている機種もあります。プレス加工中にはスライドの上下動や衝撃によって大きな振動と荷重が発生します。「ベッド」はそれらを確実に受け止め、機械全体に分散させ、プレス機械による安定した生産活動を支えます。
下型を支える「ボルスタ(bolster)」

ベッドの上には、金型の下側(下型=ダイ)を直接固定するための「ボルスタ」が取り付けられています。「ボルスタ」はスライドに固定した上側金型からの強い圧力や摩耗に耐えるため、厚みと強度が求められる部品です。加圧時の強大な荷重を受け止めながら、その力をベッド全体に分散させる役割を担います。「ボルスタ」の上面にはT字溝(ティースロット)などの加工が施されており、下金型を正確かつ確実に固定するために用いられます。金型の足元を固める土台として、「ボルスタ」は目立たないながらも重要な役割を果たしています。
プレス機械の心臓・頭脳として─動力系と動力伝達・制御システム

プレス機械が金属を加工するためには大きなエネルギーが必要です。このエネルギーを生み出すのが「モータ」や「フライホイール」の動力系、そのエネルギーを加工に使用できるようコントロールするのが「クラッチ」や「クランク」などの動力伝達・制御系です。人の体に例えると動力系は、全身に血液を送る心臓のような役割を果たし、動力伝達・制御系は、そのエネルギーを必要な場所へ届けたり、動きを制御したりする頭脳のような働きをします。
エネルギーをつくる「動力系」
動力系の中心は「電動モーター」です。ここで発生した回転エネルギーは、直接スライドで使われることはありません。回転エネルギーは一旦「フライホイール(弾み車)」という大きな円盤に蓄えられ、必要に応じて使用できるような構造になっています。
電池の様な働き?のフライホイール

「フライホイール」は、プレス機械のエネルギー源の一つで、モータによって回転し、慣性の法則を利用して回転エネルギーを蓄える大型の円盤です。加工中に一時的に大きな力が必要となるプレス機械は、モータからのエネルギーを蓄積した「フライホイール」から必要なエネルギーを安定供給します。
動きをコントロールする「動力伝達・制御系」

動力系で得たエネルギーは動力伝達・制御系の装置によってスライドの上下運動に変換され、プレス機械での生産を可能にします。「クラッチ」「ブレーキ」、そして「クランク機構」などの装置がそれにあたります。
「クラッチ」「ブレーキ」の役割
「クラッチ」は、エネルギーを制御する役割を担っており、フライホイールに蓄えられたエネルギーを必要なタイミングでスライド側に伝えます。「クラッチ」が作動するとフライホイールの回転エネルギーは、「クランク機構」に伝わり、スライドが上下運動します。「ブレーキ」はクラッチを切った後、スライドの動きを止めるための装置です。動作完了後に素早く停止させることで、安全性と加工精度を保ちます。(マニュアル車の運転と同じですね)これらの装置はモータの回転エネルギーを必要なタイミングで伝達・遮断させたり、必要な動きに変換したりすることでプレス機械の動きを制御しています。
「クランク機構」
「クランク機構」とは、フライホイールから伝わる回転運動を直線運動に変換する仕組みで、「クランク軸」「コネクティングロッド(連結棒)」「クランク」などの部品で構成されています。これらの動力系および動力伝達・制御系の装置は、それぞれが役割を分担しながら連携し、精密かつ正確なプレス加工を支えています。
プレス加工の主役を担うプレス機械の可動部「スライド機構」

プレス機械が金属を打ち抜いたり、曲げたりする動作をするうえで、作業の中心となるのが可動部の「スライド機構」です。「腕」や「筋肉」のような存在の「スライド」、スライド運動の精度を安定させる「スライドガイド」、その他制御装置や安全装置などがそれぞれの役割を果たすことで、安全かつ精密な加工が実現します。
上型を支えるスライド
金型の上側(上型=パンチ)を固定して支え、上下運動する可動部分を「スライド」と言います。この「スライド」の往復運動が素材に圧力を加え、素材の加工を行います。スライドの動きは、ストローク(スライドの上下移動距離)やスライド速度、停止のタイミングなど、加工内容に応じて細かく調整され、特に精密な加工では、スライドの直進精度が重要視されます。スライドが正しく、安定して動くことは、製品の精度に直結します。少しでもブレたり、動きにムラがあったりすると、金型や製品に不具合が生じるリスクもあります。
ストロークとは?
スライドが上下に動く「移動幅」のことを「ストローク」と呼びます。加工する素材の大きさや厚さによってもこの「ストローク」の長さが変わります。
スライドを正しく導く「スライドガイド」
プレス機械のフレームの説明で触れた、コラムの中には、スライドを正しく上下運動させるための「スライドガイド」が設置されています。「スライドガイド」の精度が低いと偏荷重(スライドの前後左右に偏りができ中心がずれること)が発生し、金型破損や加工不良の原因にもなります。
金型とプレス機械を守るーオーバーロードプロテクタ
油圧式「オーバーロードプロテクタ」は、スライドに過負荷がかかると油を逃がすことで圧力を落とし、機械を停止させる安全装置です。金型やスライドの破損防止に非常に重要な役割を果たしています。「オーバーロードプロテクタ」作動後はリセット作業が必要です。
プレス機械は、各部品が連動して加圧・加工動作を行う、非常に複雑な構造を持った機械です。エネルギー源となるフライホイールが回転運動を蓄え、その動力がクラッチを介してクランク機構へと伝達されます。伝わった回転運動は、クランク機構によって往復運動に変換され、スライドの上下運動を生み出します。スライドに取り付けられた上金型が素材を加圧し、その力はボルスタを通じてベッド全体へと分散され、構造全体でその衝撃を受け止めます。この一連の流れを支える各部品の精度や剛性は、加工精度や金型の寿命、安全性に大きく関わっています。
まとめ

いかがでしたか。今回は、プレス機械の基本構造についてご紹介しました。「フレーム」「ボルスタ」「動力制御システム」「スライド機構」など、各構成要素がそれぞれの役割を果たしながら、プレス加工を実現していることがお分かりいただけたと思います。
プレス機械Part3では、プレス機械の仕様やオプション装備など、実際に松本ESテックに導入されているプレス機械をご紹介しながらお伝えします。現場で活躍する担当者の声もお届けする予定です。どうぞお楽しみに!